『君の名は。』のコミックス・ウェーブ・フィルムによる最新アンソロジー映画『詩季織々』に参加した竹内良貴監督インタビュー

現代の中国を、ありのままに伝えることの新しさ

©「詩季織々」フィルムパートナーズ

 『君の名は。』のコミックス・ウェーブ・フィルムが贈る最新作は日本と中国、次世代の若手監督が描くオリジナルアニメーション! その中の1編を手がけた竹内監督に、作品の見どころを聞きました。

(インタビューと文= 後藤真子)

 中国のアニメ界をリードするリ・ハオリン監督が、新海誠監督の大ファンになったことをきっかけに、日本で制作をと熱烈なオファーを送って実現したという『詩季織々』。3編のアンソロジーである同作に、唯一の日本人監督として参加した竹内良貴さんは、その作品『小さなファッションショー』で、広東省の大都市・広州と、そこに暮らす現代の中国の若者を鮮やかに描き出しました。
「物語の場所や設定は自由にさせてもらえたのですが、まず他の2編が北京と上海の話なので、かぶらないほうがいいだろう、と。また、担当するテーマが『衣』だったので、それにちなむ場所を調べたら、広州がマッチしました。広州は、アパレル業界の製造が盛んな街なんです」と竹内さん。広州を描くにあたり、ロケハンのために2回、現地を訪れたそうです。
「1回目は絵コンテを描く前に、5日くらいの日程で、あちこち回れるだけ回りました。2回目は、場所はだいたい決まってきたので、そこを中心に3日ぐらい。作品では、実際にある場所は、なるべくそのまま描くよう心がけました」
 主人公のイリンは、スタイル抜群のファッションモデル。スポットライトを浴びてステージに立ち、街角ではポーズをきめて撮影し、パーティーを楽しんだかと思えば、一人でランニングへ――そんな彼女の背景に、都会的な公園や、東京顔負けの幹線道路、街路灯がずらりと並ぶ橋、ビルのショーウインドーや高層マンションが描かれます。書店の場面では何種ものファッション誌が平積みに。
「広州は、実際の人口が1200万人にもなる大都市です。何でもあるし、すごい都会ですから、暮らしぶりは日本と変わりません。むしろ日本のほうが遅れている部分があるくらいです。現地の人のほとんどが携帯電話を使用した支払いを行っていて、現金をあまり見ませんでした」
 作中で描かれる中国の大都会、そのリアルな姿には、新鮮な驚きを覚える人も少なくないでしょう。日本とは隣の中国を、知っているようで、実はよく知らないのだと気づかされます。
「人民服を着て自転車に乗っているというような、日本人が今までイメージしてきた中国の景色は、現代ではもう、ほとんどありません。奥地の少数民族や、都市の一部分には多少残っているかもしれないけれど」。現代の中国を、ありのままに紹介していることが、この作品の新しさになっているのではないかと、竹内さんは語ります。そして最も注力したのは、「キャラクターの演技です。ふだんのやりとりや感情といったものが表現されていないと成立しない話なので、しぐさや表情をちゃんと描こうと思いました。そういうものへの感性は、日本も中国もさほど変わらないはずなので」
 喜怒哀楽を細やかに表し、生き生きと動くキャラクターたち。観ているうちに、中国か日本かという意識を離れ、自然に親しみが湧いてきます。だからこそ、舞台となっている広州の魅力が、すっと心に入ってくるのかもしれません。気がつくと、行ってみたくなっている――アニメツーリズムに出かけるファンの気持ちが、実感できる作品です。

【プロフィール】
竹内良貴TAKEUCHI YOSHITAKA/1985年生まれ。東京工科大学メディア学部卒業。映画『秒速5センチメートル』(2007)より、すべての新海作品に背景美術・CGスタッフとして参加。『君の名は。』(2016)をはじめとした新海作品で3DCGチーフを務めた。自身でもアニメーション作品やCMなどに演出、監督として携わり「小さなファッションショー」でオリジナル作品の初監督デビュー。

【作品解説】
今夏公開されるコミックス・ ウェーブ・フィルムの最新作は中国の3都市を舞台にした珠玉の青春アンソロジー。中国のアニメ業界をリードするリ・ハオリンを総監督に、実写映画出身でアニメ初挑戦となるイ・シャオシン、そしてCGチーフとして長年に渡り新海誠監督の作品を支え続けてきた竹内良貴を監督に起用。【衣食住行】をテーマにした全3編。8/4(土)テアトル新宿、シネリーブル池袋ほかにて公開。

作品公式サイト

「陽だまりの朝食」
北京で働く青年シャオミンの子供時代の思い出は、ビーフンとともにあった…
(監督:イシャオシン)

「小さなファッションショー」
ファッションが盛んな街・広州で暮らすモデルのイリンと学生のルル
(監督:竹内良貴)

「上海恋」
1990年代の上海。幼なじみのリモとシャオユはふとしたきっかけで、離れ離れになる
(監督:リ・ハオリン)